三匹のこぶた |
長男:邵可 次男:黎深 末っ子:玖琅 |
ある時、伯母さんぶたが三匹のこぶたの兄弟に言いました。 「おまえたちもそろそろ独立してもよいでしょう。紅家の土地ならどこでも良いから自分一人で家を建てて住むようになさい」 この伯母さんは大変実力者でしたので、いかな紅家直系の三兄弟とはいえ従わないわけにはいきませんでした。そこで三匹は紅家の土地に宛てもなく散らばりました。 さて、ここに一匹の狼が登場します。 どんな方法で情報を得たのか知りませんが――どうせ跡目を狙って直系を煙たがる考えの足りない親族がわざと漏らしたに違いありませんから。 世間知らずのこぶたが三匹も食べてくれと言わんばかりに無防備になっているのです。 狼は大喜びで兄弟の住むことにした土地を目指しました。 こぶたの長男は普段からぼんやりしていました。本当はやる気にさえなれば何でもできるのですが、どうでもいいと思ったことには手を抜いて抜いて抜きまくるような性格でした。 能ある鷹は爪を隠す、というか。……こぶたですが。 でも総じてものすごい面倒臭がりと言ってもよいでしょう。 長男は思いました。 「住む所なんて野宿でも十分だ」 まあ、少しくらい快適でもいいかと、藁を貰ってきて簡単な家……というか小屋……というか、単に木の枝に藁の壁を被せただけのごく簡単な作業で家づくりを終わらせてしまいました。 この家未満を見つけて、狼は驚喜しました。何故か肺活量自慢の狼は、夜にまぎれて小屋未満に近付き、おもいっきり息を吹き付けました。 軽い藁の壁などたちまち吹っ飛んでいきます。 しかし。肝心のこぶたの姿はどこにもありませんでした。 「しまった!こぶたも一緒に吹き飛ばしてしまったのか!?」 もしそうならかなり間抜けなお話です。 実際は、裏の世界にも通じている長男、いち早く狼の気配を感じると身軽に藁の家を捨ててさっさと逃げ出していただけなのでした。 さて、二番目のこぶたですが、木でできた家を作りました。兄の造ったものよりずっと家らしいです。 この二番目ですが、実は比類なき天つ才の持ち主でした。こぶたですが。 そうして、ある意味とても狡猾でもあったのです。 一番上のこぶたを食べられず、お腹をすかせた狼は、二番目のこぶたの木でできた家に辿りつきました。 狼は木くらい吹き飛ばす自信がありましたので、夜になると大きく息を吸い込んで思いっきり吹き付けました。 木でできた家はばらばらに砕けて崩れました。 「さあ、こぶただ!」 瓦礫の下で潰れているはずのこぶたを捜します。しかし、どこにも見当たりません。おまけに、気がつくと家の建っていた地面が沈んでいくではありませんか! 「馬鹿が。あんなもの囮に決まっているだろう」 二番目のこぶたは刺客を予想していたので、わざわざ湿地の上に木の家を建てたのです。そうして自分はそこを見晴らせる離れた場所に目立たない住み処を造って潜んでいたのでした。 三番目の末っ子こぶたは、石橋を叩いて渡るタイプでした。叩くのは他人にやらせたりもしますが。 末っ子は、たいそう器用でした。そして上の兄たちと違って面倒臭がりでも、頭は切れても常識が不足するようなこともありません。 兄弟の中で一番信頼のおけるのは彼でしょう。実際かなり貧乏くじを引いていたりもします。所詮こぶたですが。 そんな末っ子は土地を決めると測量からはじめました。しっかりとした固い地面にがっしりと基礎の土台から家を造りはじめました。同時にレンガも焼いていきます。 お腹を空かせた狼が、湿地と瓦礫からようよう脱出して辿り着いた時、末っ子の家はまだ完成しておりませんでした。 これなら、吹き飛ばすまでもありません。それに、二度吹き飛ばして何も得られなかっただけに、狼も吹き飛ばすことに自信を失いはじめていたのです。 ですから、もう夜まで待つこともしませんでした。炉に向かってせっせとレンガ作りにいそしむ末っ子の背中からそうっと近づいて、一挙に襲い掛かりました。 いえ、襲い掛かったつもりでした。 兄たちほど特殊な特技は持っていないとは言え、末っ子とて刺客と無縁だったわけではありません。背後からの異様な気配にさっと身体を避けました。 狼は、その勢いのまま、なんと赤々と燃えている炉の中に鼻面を突っ込んでしまったのです。 「あちっ!あちっ!あちーーーーっ!」 いやもう、そのままこんがりとローストされるところだったのですが、意外なことに狼を引きずり出してやったのは末っ子でした。 「おまえ、うちの親戚からの刺客か?……にしてはずいぶんと間抜けだな」 それでも、火にあぶられた鼻面を水で冷やしてやりました。 「この炉はレンガのために造ったのだ。おまえを燃やすためじゃない。おまえが燃えても後片付けが大変なだけだ」 狼はおとなしく鼻面を冷やしておりましたが、そのお腹がこんな時だというのに派手に鳴きました。 「なんだ、腹がへっているのか」 末っ子は、たちまちのうちに何品もの料理を作ってやりました。 「ほら、喰え。どうせ狼だからと生肉しか食べていないのだろうが、そんなことでは栄養が偏るだけだ」 末っ子の作ってくれた料理は、決して凝ったものではありません。けれど、狼にはこれまで食べたどんなものより美味しく感じられたのです。 狼は、これまでのことを末っ子にうちあけました。 「何?兄上たちに?おまえでは痛い目にしか合わなかっただろう。兄上たちは中々にひねった感性の持ち主だからな」 まったくその通りでした。狼は三兄弟の誰一人として食べることはできず、ただもう疲れてしまいました。そして、この時より、末っ子に忠誠を誓い、末っ子が大人になってもずっと忠実に仕えたということです。 上の二人はどうなったかといいますと。一番上はそのままどこかへ旅に出てしまい、優秀であることだけは間違いない二番目の兄が一族の当主となりました。 けれど、結局苦労して一族をまとめているのは末っ子なのですが、これはまた別のお話です。 |