月 魄 伝
(げっぱくでん)




 上治十年のころ、黒州州都遠游に、杜影月という男があった。

 千里山脈は西華村に育ち、わずか十二で国試を状元にて及第した秀才である。
 茶州州牧を賜ったが紆余曲折ののち降格となり、名官の誉れ高き櫂瑜に師事して数年後、王の信頼を得、上治八年、黒州州牧を拝命した。


 その影月も二十歳となり黒州は平和に治まっていたが、圓湖郡にて豪族の争いが勃発。急ぎ単騎にて赴き、収拾を図った。
 しかし、圓湖の混乱は深く、早期の帰還予定は崩れた。
 かの地に留まること既に三月。ようよう事態は治まりつつあった。


 そんな折、郡城にて怪異の噂がたった。
 月下に優れて麗しき女人の姿が宙に現れるという。それ故、人為らずと。
 大事とは思われなかったが何やら心が騒いで、月が欠け始めた夜、影月はひとり城郭を巡った。
 
 夜半、幽かな光を帯びてふいに女人が城郭に舞い降りた。
 影月はそれを見て己の予想を確信とする。
 女人は影月に気付くと繊手を伸ばしたが、その手は透けて、重なることはなかった。
 影月は女人に語りかける。

「君、疾く帰り給え。
 吾、暁と共に遠游へと駆け、
 夢より艶やかなる
 君を腕(かいな)に抱かん――」

 女人の姿は忽ち消え去り、後には影月一人が残った。
 この様を郡城の衛士が眺め、心に留めた。


 影月は言葉通り翌朝早くに出立し、急ぎ遠游へと戻った。
 一路十日余り。
 先の郡城の衛士は州牧の護衛を勤め、共に州牧邸の門を潜った。

 邸で出迎えた妻女を見て、衛士は大いに驚いた。
 その女人こそ郡城の怪異の主。
 しかし、地に足をつけ、その身に透けたところはない。
 その眼差しの憂いが晴れるのを見て衛士は悟る。
 魂魄千里を駆け、夫子を訪ねたのだと。

 衛士より伝わり、この話、巷間の知るところとなる。



 杜影月、仁の人なり。
 劉輝治世に於いて数多排出せし名官の一人として史書にその名を残せり。
 縁ありて若くして妻女を娶る。女、茶家の者なり。名を香鈴という。
 夫婦睦まじく、比翼連理の契りとは当に是なり。

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『月魄伝』(げっぱくでん)


「唐宋伝奇集」を読んでいたら、なんだか書きたくなってしまいました。影響受けやす過ぎです。

しかも、最初、全文こんな感じで書こうとして……挫折しました。


 上治十年のころ、黒州州都遠游に、杜影月という男あり。
 千里山脈は西華村に育ち、僅か十二で国試を状元にて及第せし秀才なり。
 茶州州牧を賜るも降格の憂き目にあい、名官の誉れ高き櫂瑜に師事すること数年、主上の覚えもめでたく上治八年より黒州州牧を拝命す。
 その影月、丁年となり黒州を善く治めるも、圓湖郡にて豪族の争いあり。急ぎ単騎馳せ参じ、仁を以ってこれを治むる。




でも、挫折したものの、どうも抜けきっていませんで、中途半端になってしまいました。
背伸びしすぎました(滝汗)
なんだか恥をさらしてしまっただけのようですが、
雰囲気だけで読んでください。
もうちょっと勉強して、きちんと書き直す…つもりです。
漢字を多用しているのはわざとです。
ええ、雰囲気だけでもね……。
黒州の郡、圓湖郡はでっちあげです。
ああ、ついに地名まで……。


「月魄」は、月が魄のようにあまり明るくない様子、ということです。

  





























(おまけ)

「ただいま帰りました、香鈴さん。わざわざ圓湖郡までお迎えありがとうございました」
「な、なんのことですのっ。わたくしはずっとここにおりましてよ!」
「はい。でも、魂魄は飛ばしちゃうと、生身の身体にはよくありませんから。異常ありませんか?」
「存じません!」
「心配させちゃったんですね、すみません。僕もずっと帰りたいと思ってたんですよ」
「……今度お出かけの際には、必ずわたくしもお連れください」
「そうですね。長く離れてると寂しいですからね」
「さ、さみしくなんか! ちょっと、ちょっとだけですわっ!」
「僕が寂しいんです」
「……」
「香鈴さん? こうっやって香鈴さんを抱きしめる夢、ずっと見てました」
「……ではもう、置いていったりなさらないで」
「ええ、きっと」


オチはありません……。放っておくといつまでも続くのでこのへんで。