紅蓮の箱 (ぐれんのはこ) |
ここは閉ざされた場所。特別な場所。 選ばれた者だけが住まう奥津城。 栄華と妄執が隣り合わせに生み出される場所。 ひとたびこの地に暮らさば、もはや平穏を得ることも叶わず。 永き時、繰り返される嘆きと哄笑、陰謀と悦楽。 ただ飲み込まれ、地獄の業火にも似たその紅蓮に身も心も染まるのみ。 仙女すら鬼女にするこの地を、人呼んで後宮という――。 (こんなに窮屈だなんて思わなかったわ) 秀麗は煌びやかな後宮に与えられた一室で溜息をつく。 紅家とは名ばかりの貧乏生活を長く続けてきた秀麗にとって、後宮は異質な場所だった。 何もかもが贅沢すぎる。何もかもが許せないくらいに。 (ああっ! この卓子の上の物だけでも売り払ったら、家の生活費の何年分になるかしら) そんなことをつい考えてしまう自分が悲しい。 おまけに貴妃という立場上、外朝をうろつく訳にもいかない。 となると、時間を持て余した秀麗が見物するのも後宮の中に限られる。思い立ってすぐに、女官たちに気付かれぬうちにと秀麗は穏かな春の午後を探索に当てることにした。 後宮を散策する秀麗は始めは観光気分だった。 今は妃と呼ばれる者は秀麗をおいて他におらず、宮中の華たる女官の数すら限られて、数多ある離宮は主なく佇むばかり。 連なる建物そのものも歴代の后たちの為に華美で優雅、そして飾られている物のどれもがひたすら趣味がいい。 歴史を刻む建物も調度も、値踏みに疲れるほどの絢爛さ。時折おそるおそる手で触れる芸術の粋。秀麗より血筋においても身分においても凌駕する者などここにはおらず、たとえそのあたりのものを持ち帰ったとて咎める者もいはしないのだが、それでも秀麗から緊張が消えることはない。 どこにいても、何をしていても。後宮に入ったその日から見えない視線に晒されているかのようなのだ。 気楽なはずの散策の途中、秀麗の背中に寒いものが走った。まるで視線の密度が上がったような――。 散策などするべきではなかったのだ。これまで与えられた室からほとんど出ることもなかった秀麗という貴妃の存在を、後宮という生き物が認識してしまったのだから。 (ここ、怖い……!) だが、秀麗がいるこの後宮こそが巨大な牢獄であり、数多の涙を生み出してきた決して逃げられぬ場所。 裏切り、讒言、暗殺――。 秀麗はあくまでも仮の貴妃でしかない。それなのに“妃”という名を背負ったことで、妃たちの妄執と暗い情念が形を取って圧迫してくるのが肌で感じられた。 その地位と呼称に籠められたのは、ただ王の訪れを待つだけ、王の情にすがるしかない嘆きと絶望。 負の感情に捕われ、追い立てられるように、秀麗は慌てて自室に戻るしかなかった。 ただ、そこすら安逸の場所ではない。 貴妃として現れた秀麗は、望まずとも後宮の模範と見なされる。巨大な猫を被ったままの生活が楽しいはずもない。 しかも完璧な礼儀作法を身につけ、女官たちに慈悲深く接しているうちに感じる、畏敬と崇拝の視線。 (やってられないわ!) 女官たちはそれぞれが名門の裕福な家の出のはず。 しかも教養豊かな美貌の女性ばかり。 貧乏などきっと知るまい。十人並みの容姿の女の気持ちなど分かるまい。 美貌の女たちに囲まれた自分がどれほど着飾ろうと、女官たちに及ばないことを自覚しているだけに、彼女たちから寄せられる好意を素直に受け止めることもできない。 (それもこれも肝心の馬鹿王に会えなくて仕事が片付かないせいよ!) たしかに報酬に目が眩んだのは自分だ。だが引き受けたからにはきっちりと教育してやるつもりなのに。未だ、秀麗は王に会えないでいた。 貴妃付きとして秀麗に仕えてくれているのは、後宮に入って間もない香鈴という年下の少女。 この美少女は、友達になれたらという思いで接していたせいか、他の女官たちよりも熱心な崇拝を捧げてくれていたりする。 畏怖さえ篭った香鈴からの黒目がちの視線は秀麗を追い詰める。 (私はそんな風に見つめられる程偉くはないのよ!) 先程も緊張のあまり茶を零してくれた。些細なことであるし、着物が濡れた以外に被害もなかったが、度々となると秀麗と言えど現状のままというわけにもいかない。 後宮では唯一人事情を知る珠翠にぼやいてみるものの、秀麗はそれだけでは気が晴れなかった。 「紅貴妃様、花茶をお持ちしました」 香鈴は泣いて赤くした目のまま、いれなおした茶を持って再び入室してきた。 「ありがとう。珠翠、わたくしがいいと言うまで人払いしてください」 「紅貴妃様……?」 秀麗の事情を知り、後宮の侍女たちを纏める美女は不審そうな視線を送ってきた。 「頼みましたよ」 重ねて言うと、ようやく珠翠は承知して秀麗の室から退出した。 二人きりになったことで香鈴の緊張は目に見える程になった。 (どうにかして香鈴の緊張を解かなくちゃ) 秀麗の意図はそこにあった。二人きりで言葉を交わして、そして友人になれればいいと。 しかし、香鈴に言葉をかけようとした秀麗は急に軽い目眩に襲われよろめいた。 「紅貴妃様っ!?」 慌てた香鈴に支えられた秀麗はそのまま少女の手を掴む。 「大丈夫です。少し目眩がしただけです」 そう、それはほんの一瞬のことだった。もう眩暈はしない。 「すぐお休み下さい! わたくし、お医師を呼んで参ります!」 「いいえ。もう大丈夫です。ですが臥台まで行くのを手伝って貰えますか」 「はいっ!」 大切な貴妃様の大事とばかり、香鈴はその華奢な手を伸ばして必死で秀麗を支えようとする。 元より自分よりも小柄な香鈴に全体重を預ける訳にもいかず、申し訳程度に寄り掛かって隣室へと向かった。 臥台に腰を降ろした秀麗は安堵の溜息をつく。目眩などここしばらく経験していないだけに自分でも不安だったのだ。 (この環境の気疲れかしら?) 一人で使うには馬鹿げた大きさの臥台から、秀麗は香鈴を見上げる。 と、意図しない言葉が飛び出した。 「香鈴、そこの棚の一番下に緋色の箱があるので取って下さい」 「はい、紅貴妃様」 香鈴は素直に棚から箱を取り出すと秀麗に手渡した。 (なんなのっ? こんな箱なんて私知らないのに!) だが確かに箱はあり、秀麗の手に納まっている。 緋色の箱。何やら禍々しささえ感じさせる箱。 (なんか気持ち悪い! 持ちたくもないわ!) 別人のもののように自由にならぬ自分の手が、箱を身体の横に置くと少し安心した。 「香鈴。こちらにいらっしゃい」 自分の手が、香鈴に向かって勝手に手招きする。 「具合はいかがですの!?」 すぐに臥台に近づいた香鈴は、不安に大きな瞳を揺らした。 「それはもう心配いりません。それより何故わたくしが先程人払いしたか判りますか?」 覚悟をきめた様子で香鈴が呟く。 「お叱りをいただくのですね……?」 (そんな訳ないじゃない!) 秀麗は心の中で叫ぶが、それは声にならない。代わりに自分の意志でない言葉が紡がれ続ける。 「その通りです。貴女は近頃些細とはいえ失敗が目立ちます」 「はい……」 消え入りそうな声で香鈴は俯いた。 (駄目よ! 香鈴みたいな子にそんな風に叱ったら、ますます萎縮しちゃうじゃないの!) だがどれほど絶叫しようと、秀麗の意志は少しも反映されない。身体の中に閉じ込められて、見知らぬ誰かが秀麗の振りを続けるのを見守ることしかできなかった。 「わたくしは貴妃として貴女を躾なければなりません。判りますね?」 「はい……」 「貴女はわたくし付きの女官。如何様にもわたくしに従いますね?」 「はい……紅貴妃様のお言葉通りに致します」 震えながらも少女は目の前で頷いた。 「よろしい。それでは命じます。おしおきを与えますので今着ている物を全てお脱ぎなさい」 「えっ!?」 「聞こえなかったのですか? 裸になれと言っているのです」 「紅貴妃様っ!?」 「早く従いなさい。これは命令です」 (そんな無茶な命令があるわけないわ!) 秀麗の戸惑いは大きくなるばかり。 目の前の香鈴はこれ以上ないほど顔を赤くしながらようやく頷くと、そろそろと帯を解き始めた。 (香鈴! そんなことしなくていいのっ!) けれど秀麗の唇が紡いだのは別の言葉だった。 「早くなさい。見苦しいですよ」 ついに香鈴は一糸纏わぬ姿となった。羞恥から胸と恥部を隠す両手が震えている。 「手は身体の横になさい。そしてそのままこちらにおいでなさい」 (何言ってるの!? 何言ってるの! 私、どうなっちゃってるのよ!?) それは秀麗の意志ではなかったが、命じられた通りに目の前にさらされた、まだ幼さの残る肢体から目を離すことはできなくなった。 陽に当たらないが故、深窓の令嬢特有の抜けるような白い肌が眩しいほど。女性としては未発達ながら膨らみ始めた胸元は何ともみずみずしくも愛らしい。肉付きの薄いその身体は折れそうな細腰でくびれ、ささやかに繁った叢へと続く。まだ女とは言えぬ、けれど確かに色づき始めた少女の香を十分に漂わせていた。 (きれい……) 我知らず見とれていた秀麗は、ふと今は豪奢な衣装に包まれている自分の身体を思う。 背丈こそ同じ年頃の少女達と変わらぬくらい伸びた。けれど、目前の年下の少女よりもさらに未発達な己の身体。局部さえ隠してしまえば少年のようでさえある。 (羨ましい……) という感情が自然と湧き起こる。 だが口をついて出たものと言えばまるで正反対な冷たい批判だった。 「まだまだ子供ですね。それなのに」 秀麗の指が淡く桃色に染まる乳首に延び、きつく摘みあげた。 「痛いっ!」 香鈴が小さく叫ぶ。 「それなのに。この身体で主上のお情けをいただいたの?」 「とんでもございません! 主上はわたくしなどには決して……!」 「嘘は許しませんよ」 「嘘などついておりません!」 秀麗の指が与える痛みから逃れようとするかの如く、香鈴は涙を浮かべながら強く否定した。 「そう? ではこの身体はまだ男を知らないままだと言うの?」 「もちろんでございます!」 香鈴の言葉に頷くと秀麗の身体を支配するものは淡々と告げた。 「ではわたくしが確かめてみましょう」 臥台に座ったままの秀麗の唇がほのかに色付いた胸の頂に近付き、まるで蛇が舌を使うようにちろり、と舐め上げた。 「……!」 声にならない声をもらし、香鈴の身体が震える。 「おや。男を知らぬと言いながら感じているのではないの?」 「ち、違いま……んんっ!」 否定しようとした香鈴の声が喘ぎに変わる。秀麗の舌と、先程まで痛みを与えていた指が触れるか触れないかという微妙な動きで両の乳首を責め始めたからだ。 「やっ……! 貴妃様っ……!」 残された秀麗の左手が脇腹をなぞりあげ、息を飲む香鈴の身体が小さく跳ねる。 膝から崩れそうになった香鈴の細い腰に手をかけると、軽々と臥台の上へと導く。 閉じられた脚を開き、自分の膝の上に座らせると 「本当にいけない子ですね」 と、つぶやきながら二つの膨らみへの戯れを再開する。 身体の安定を求めてだろう、香鈴の両腕が秀麗の頭を抱える形となった。そうなると秀麗の唇はますます乳首を責めるに最適な距離となる。 「いやらしい。それほどわたくしに舐められたいのですか?」 「ちが……っ!」 返事を待たずに秀麗の唇はすっかり固くなった頂を吸う。膨らみに指を這わせそろりそろりとその形を確かめる。 そんな場合ではないというのに、自由にならぬ自分の身体の中で呆然としていた秀麗は、自分の指から舌から伝わる感触に我を忘れそうになった。 (香鈴の肌、すごく触り心地がいいのね。胸もまだ小さいけど柔らかくって……) 指がうごめく度に香鈴は、息を飲むような微かに喘ぐような息使いに変わる。 秀麗を支配するものは唐突に香鈴の胸から顔を上げ、腕をほどかせると腰に手をかけて再び少女を持ち上げる。 別人に乗っ取られたとしか思えない秀麗の身体は、香鈴の向きをかえた。 華奢な肩に軽く歯をたて、背中から抱き着くように腕を延ばすと、両手を使って乳房を揉み始めた。 香鈴の息が上がっていくのがわかる。懸命に声を殺そうとしていることさえ判る。 「わたくしにこうされてよろこんでいるのですね」 「紅、貴妃、さま……っ」 嫌々をするように香鈴の首は振られ、絞り出された涙を含んだ声は秀麗の手の動き一つでたちまち途切れる。 「やっ! もぅっ……」 「余程気持ちがよいようですね。それではこれはどうです?」 左手は乳房を蹂躙するまま右手を叢の中に潜りこませる。そうしてまだ誰にも触れさせたことがないであろう場所の前後をなぶるようにうごめかせる。たちまち秘所から蜜が沸き上がってきた。 「はしたないこと。たったこれだけで濡れているではありませんか」 香鈴はと言えばただもうしゃくり上げるばかり。 秀麗の指は隠された膨らみにたどり着くと、猫が鼠をいたぶるかのような熱心さでその場所の周りばかりを弄った。十分に遊んでから一挙に中央を強く責めると、 「あ…………!」 一声上げて香鈴の身体がしなって力を失った。 力の抜けた香鈴を自分に凭れさせたまま、秀麗の右手は忘れられていた緋色の箱に伸び、蓋を開けて何かを取り出した。 紅い、紅い紐。紐には小さな金色の鈴がついていた。秀麗の手は器用に香鈴の首に紐を巻く。 少女を飾ることになったその紐は白い肌にこの上もなく映える。いや、先ほどまでのように単に全裸であるよりも余程扇情的である。 大きく結んだその根本で鈴が小さく「ちりん」と鳴った。 秀麗の手は香鈴の背後から両腿を抱え上げると、無防備にさらされた秘所へのいたぶりを再開する。激しさを増す指の動きに香鈴は息を荒げて逃げようとするかのように身体をくねらす。その度に小さな鈴音が響いた。 「なんてお行儀が悪いのでしょう。わたくしの長裙まで濡らしてしまうなんて」 言葉でなぶりながら指もまた動きを止めない。 「も、もうしわけ……っ……んっ……!」 纏め上げられていた香鈴の髪がほどけて肌の上に流れた。射干玉の髪と白い肌の取り合わせは、髪をより黒く、肌をより白く見せる。 (こんな状態でもこんなに綺麗なんだ……) 秀麗はそんなことをふと思った。 「さて、香鈴。わたくしはそもそも貴女に快楽を教えるためにこういったことをしたわけではありません。粗相の多い貴女に罰を与えると言ったはずです」 「……は……い……」 「これからが本番です。臥台の上で獣のように四つん這いになりなさい」 とても自分とは思えないような高圧的な態度で、未知の人格は当然のように命令を下す。 「は……い」 (ちょっと! これ以上香鈴に何するって言うのよ! もう十分恥ずかしい目に合わせたじゃないのっ) 自分が知っているはずもない方法で年下の少女の身体をいたぶる姿に秀麗は鳥肌が立ちそうなくらい嫌悪感を抱いた。だが、それと同時にわきあがってくるこの感情は一体何だろう? (もっと……もっと……。香鈴の身体にもっと……) (ええ。もっと思い知らさせてやらねば) 自分の声にならぬ独白に、禍々しさに彩られた声が答えを返した。 緋色の箱から再び何かが取り出される。秀麗の手は自らの長裙を巻き上げ、秘所をむき出しにすると、紐を使って取り出したものを腰に巻いて止めた。 (何……?) 秀麗には用途のわからぬ棒状のものが自分の脚の間から生えている。 臥台の上で震えながら伏せる香鈴に近づくと、追い討ちをかけるかのように割れ目を辿って生き物のように五本の指が蜜壷の入り口をなでさする。 漏らされる香鈴の息がそこはかとなく甘いのは気のせいか。 「これからおしおきを与えます。よいですね」 「はい……」 「では受け取りなさい、貴女への贈り物です」 秀麗の手が香鈴の腰にかかり、ねじりこむように異物を投入して行った。それは秀麗自身の秘所からそそり立ち、幼さの残る少女の中へと挿入されていく。 「い……っ、いたいっ!」 逃れようとする腰を動けぬよう押さえつけたまま、香鈴の秘所と秀麗の秘所を繋ぐ距離がどんどん短くなっていく。 「いやっ! いたい! 紅貴妃さまっ! もう、ゆる、して……っ!」 「まだ全部収まっていないではありませんか。おまけにこれはおしおきなのですよ? 多少痛くても当たり前でしょう」 (何してんのよ! 何してんのよ! 何してんのよぅ!) 混乱しながら秀麗は、本来自分のものでないはずのものが、少女の中に侵入する感覚を伝えてくるのに気が付いた。 (気持ち、いい……? 何で? そんなわけ無いじゃないっ!) 狭い少女の閉ざされた通路をこじ開けていく快感。強く締め付けてくる快感。 根元まで埋め込まれたそれを一気に引き抜き、また一気に潜り込ませる。 (もうよく判らないけど、やめたくない……。気持ちいい……) 秀麗からは痛みに泣き叫ぶ少女を労わる気持ちさえ消え去り、ただ欲望に飲み込まれて、更なる快楽のために少女を蹂躙することに耽溺していった。 「いやっ、もういや! いたいやめてっ!」 香鈴の泣き声が秀麗の中の加虐性を高める。 (私よりずっといい暮らしをして! 私よりずっと綺麗で! 私と違ってちゃんと女の身体になりかかってて!) 声が重なる。 (わたくしより身分が低いくせに! 主上の寵愛を得ようとする者を容赦しておけるものか! いつわたくしの主上に色目を使うかわからぬような小娘など痛い目に合わせねば!) 男と女の営みなど知らぬはずなのに、自分は男でもないはずなのに、負の感情がありえないことを生み出していた。 (ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない) それはもうどちらの感情かすら定かではない。激しく腰を振って、ただひたすらに少女を汚していく。それがかつて知ったどんなものとも比べられぬ悦楽を秀麗に教える。 (こうよっ! こうしてやるっ! わたくしは貴妃なのですから、後宮の女官はすべてわたくしに従わなければならないのだから。女官の身体の一つや二つ、こわしてしまってもかまわない!) (ああ! いい気味! もっとよ! なんて愉しい! こんな気持ちのいいこと知らない!) 秀麗が腰を使う度に、華奢な香鈴の身体は振り回される。そして激しく首に巻かれた鈴を鳴らし続けた。 「きちんと反省できましたか? その顔をお見せなさい」 繋がったまま、強引に香鈴の身体を回転させて仰向けにさせると、己の下に組み敷く。 涙の跡が幾筋も残る香鈴の顔は、与えられる痛みに歪んでいる。 「なんと醜い顔だこと。こんな醜い娘に手加減は無用ですね」 秀麗の手が緋色の箱からまた何かを取り出す。そうして、今はもう自分の持ち物でしかないかのようにさえ思われる物体に被せた。たちまち先ほどよりも太さも長さも増した状態となったものを当然のように香鈴の中へと捻入れ、そこから二つに引き裂く勢いで激しく一挙に打ち込んだ。 「いやぁぁっ!」 ついに痛みのあまりだろう。香鈴が意識を手放したのがわかった。 と同時に、秀麗の中からも何かが抜け落ちていく感覚があった。 狂ったような快楽は一挙に冷め、秀麗は禍々しいものを香鈴から引き抜くと、自分に結び付けられていた紐をほどいて臥台の上に投げ捨てる。 それが何で作られているのかなど、秀麗には判らない。だが判ることもあった。 (これには、過去の妃たちの妄執が宿ってるんだ……) 香鈴の破瓜の血に染まったそれは、元から赤黒いものだったようだ。きっと、何人も何人もの妃たちが、やはり何人も何人もの女たちを汚すために使ってきた道具。王に侍る資格を奪い、その行為を暗い歓びで満たすための道具。 名目上だけだというのに、貴妃として後宮に上がった秀麗だからこそ、過去の妃の妄執に憑依されたのか。 (でも、私の中にもそれを楽しんでいる自分がいたわ……) 目を転じると、痛々しい少女の姿が飛び込んでくる。無理矢理、過去の妃と秀麗とに花を散らされた娘。 秀麗は意識のない香鈴の頭を抱え込んだ。 「ごめんなさい、ごめんなさい香鈴……!」 何ということを自分はしてしまったのか。後悔の念が沸き起こる。 「紅、貴妃、さま……?」 意識を取り戻したらしい香鈴が長い睫毛を揺らして秀麗を見つめた。 「ごめんなさい香鈴!」 「いいえ……わたくしが至らなかったからですもの。どうぞ、謝ったりはなさらないで……」 「違うの! 私が悪いの!」 香鈴はゆっくりと首を振る。 「女官の先輩に伺ったことがございます。王の妃とはお辛いものなのだと。その憂さを晴らしてさしあげるのもわたくしたちの勤めなのだと」 「それでも、せめて謝らせてちょうだい。私の中には香鈴を僻む醜い心が確かにあったんだから!」 「紅貴妃様ほどの女性はいらっしゃいませんわ」 秀麗はただ、香鈴を抱きしめて泣き続けた。 緋色の箱は気が付けばどこにも見当たらなくなっていた。臥室には二人きり。臥台には二人きり。それなのにかき消すように消えてしまった。あの香鈴の血を吸った禍々しいものも一緒に。 (あれは、現世に現れた地獄の紅蓮の炎) ただ、香鈴の首に巻かれた緋色の紐と鈴は何としてもはずすことはできなかった。刃物でも切れない紐などありえないというのに。 「衿の下になっていれば見えませんわ」 香鈴はそう言って秀麗に微笑んでみせる。 だが、ふとした折に香鈴の身動きと共に鈴が鳴ると、秀麗の中におぞましいものが目覚める。 (ああ、その音色を聞かせないで!) 耳についた鈴の音はその度に秀麗を変貌させる。 「香鈴、こちらにいらっしゃい」 「はい、紅貴妃様」 その手にいつの間にかどこかからか現れた紅蓮の箱を持って、王の妃は哀れな生贄を臥室に誘う。 鈴は獲物が自らを差し出すための合図。 「先ほどのあの失態は何だと言うのです? もちろん、おしおきが必要ですね」 「は……い」 そうして扉は閉ざされる。 ほの暗い絶望と逃避のための快楽の儀式のため。秀麗の意志を欲望で飲み込み、生贄の少女の悲鳴を洩らさぬため。 「おゆるしを……! あっ、貴妃様ぁっ!」 「そなたがいけない子だからです。こうせねばならないのです。わかりますね? ああ、まだまだ躾が足りないようです。もっとおしおきをしなければ」 「ああっ! いやぁっ!」 暗く呪われた連鎖は果てしなく続く。 この閉じられた後宮の、そのまた一室で――――。 |
『紅蓮の箱』(ぐれんのはこ) 後宮を舞台に、秀麗×香鈴ができると、冗談で妄想してしまいました。 もっと軽い「おねえさまとわたくし」みたいな話になるはずでしたが、 蓋を開けてみればこりゃ一体……。 当たり前ですが、百合など書くの始めて。それも18禁を書くなどと……。 ブラック秀麗になるかと思いましたが、秀麗はブラックにはなりきらせることができませんでした。 みんな後宮と言う環境が悪いのよ、ということでひとつ……。 どうせこんなにダークになるなら、もっと後宮に染み込んだ過去の怨念についても書いてもよかったですね。 そうなると、えろというよりホラーになったかもしれませんが。 ちなみに、秀麗の身体は、二次性徴があらわれていないものとしています。 そして、香鈴の口調に特徴がないのは、第一巻では普通に話していたことを受けています。 あの口調、『想いは遥かなる茶都へ』からなんですよね。 香鈴がかなり個性のないおとなしい娘のように見えなくもないんですが(汗) そして、当然のごとく、この話そのものが 通常の『想月楼』で展開している影香話とは繋がっておりません。 こういうのもやっぱりパラレルですか? |