燕青の茶州酒宴開催記
(えんせいのさしゅうしゅえんかいさいき)




(あいつは、もう少しくだけていい)
 緑、ますます萌え盛る頃。
 生真面目で笑顔を絶やさない弟のような同僚を脳裏に浮かべて、州尹室の窓から木々を眺めながら燕青はしみじみ思った。
 まだ十五。なのに年齢に似合わずすべてにおいて控えめで腰が低い。
 自分があの年頃には――と思い返すが、自分の場合は特殊すぎて比較にならない。
 だがようやく茶州も国全体も明るい方向にと動き出し、未来を信じてもいいかと思える時代がやってきたのだ。もういつまでも臨戦態勢でなくてもいい。
 年相応の顔を見せて欲しい。あの年頃ならではの悩みなどもあるはずなのだ。
 早い話、自分を頼って相談してくれると嬉しいと思う。単に兄貴ぶりたいだけかもしれないが。

(とりあえず酒かな。とことん酔わせて自分をさらけださせてやるか)
 もしかしたら性格上、悩みを口にできないのかもしれない。ならば、酒は有効だ。
 それなのに。
 肝心の少年は酒宴に列席しても酒を過ごしすぎることがない。
 どれほど勧めても自分で決めた限界まできたら絶対にそれ以上飲まない。
 理性的であり、頑固でもある。
(そんじゃまあ、いっちょ本音が言える場を作ってやるか)
 燕青はひとつうなずくとさっそく根回しのために動き始めた。




「……つーわけで。今夜は州牧邸の広間で宴会やるから。おまえは強制参加な」
 その数日後の夕方。州城での業務も終わった頃、燕青は高らかに影月に向かって宣言した。
「え? 今日ですか? ずいぶん急ですねー。はあ、強制参加ですかー」

 影月が存分に酔うまで酒を飲まないのは、もしや帰路を心配してのことではと燕青は考えたのだ。
 州牧邸でなら、酔いつぶれて眠ってしまったところで問題はない。明日は休みだから、二日酔いになったとしてもゆっくり休める。
 念のため、葉医師と若手医師たちも誘った。酒と聞いて葉医師が断るわけもなく、二日酔いの薬持参で来てくれという要請にあっさりと快諾してきた。これで、悪酔いしたとしても心配はない。
 櫂瑜は、州牧邸の広間を使うことを快く許可してくれた。
 ただ、自分が参加すると官が萎縮するだろうと参加は辞退とのこと。そのかわり、きっちり酒肴を手配してくれたようだ。このあたり、年の功だと燕青は思う。
 燕青自身も馴染みの店に頼んで酒と菜を運んでもらう手筈になっている。宴会においても手腕を発揮する男、それが浪燕青だった。
 参加の面々にも、今日の目的は影月を酔わせることだと通達してある。
 多かれ少なかれ、影月に兄貴ぶりたい男たちばかりだ。今夜、影月に酌をしようとする者はきっと後を絶たないことだろう。


 酒宴はなごやかに始まった。
 題目などなんでもいいという参加者が多数を占める。普段なら、季節やら何やらに託けて口実にするところだ。
 それでも今日の参加者の大半は、燕青の通達に歓声を上げた口だ。やはり、誰もが密かに思っていたのだろう。影月が酔って自分をさらけださないと。
 酔えば泣き言や愚痴だって飛び出して当たり前。それこそ人間らしい反応だし、そうして自分をさらけだすことで信頼関係だって築いていける。
 影月が自分たちを信頼してくれているのは判ってはいたが、対個人としてはまだまだではないかと皆思っていたらしい。

「今日は思う存分飲んでいいぞ。寝たい奴はそのまま寝てもいいし、具合が悪くなっても医師もいる」
 酒宴の挨拶代わりに燕青がそう切り出すと、わっと歓声が上がる。
「そりゃ安心だ!」
「店から追い出されて道端で寝る心配もいらないな!」
「おまえ、いつもそんなことしてんのかよ」
 口々に官吏たちが同調し、宴の成功は見えたも同然だった。
「櫂のじーちゃんからも酒、たっぷりもらってっからなー」
 燕青が後に積んだ樽を指して乾杯する。さっそく美酒を手に皆が満足の声を上げた。
「うーん、いい酒だ!」
「よしっ! 今夜は影月君もとことん飲むよな?」
「そうだそうだ! 今日はオレの酌を断らせないぞ!」
 まだ始まって間もないというのに、影月は官吏たちにすっかり包囲されている。
「お手柔らかにお願いしますー」
 苦笑しながらも影月はさすがに次々杯に注がれる酒を拒みはしなかった。
 陽月といううわばみが共有していた身体だ。体質的に飲めないなどということはないはずだと燕青は睨んでいる。
 思った通り、影月が酒を干す速度は、杯を重ねても変わることはなかった。


 そうして何刻もしないうちに、集中攻撃を受けた影月はすっかりできあがってきたらしかった。
 ふらりと燕青の横に席を移って来た影月は、座った目線を燕青にあてた。
「燕青さん、僕、燕青さんに言っておきたいことがあるんです」
 そのときの燕青の内心は、
(来た来た来た!)
 とむしろ喜びに溢れていた。まさに狙い通り。どんな愚痴でも聞いてやろうではないか。

「知り合って二年になりますけど、僕はずうっと燕青さんに感謝してるんです。燕青さんみたいになれたらなって憧れてますし、尊敬してますし、ええと、それはもう大好きなんです」
 それは燕青の予想とは大幅にずれていた。普通、こういう時は文句でも言うものではないだろうか。
 だが、これも間違いなく影月の本音なのだろう。とてつもなくくすぐったく照れくさいが、嬉しくないわけがない。
「ありがとよ」
 燕青は頬を掻きながら短く礼を述べる。
「――っていうか、燕青さんだけじゃなくってですね、茶州州官全員、僕の尊敬の対象なんですよ? なんでこんなすごい人ばっかりいるんだろうとか、いつになったら追いつけるんだろうとか、早くもっと役に立ちたいとか、とにかく、やっぱり大好きで、嫌いな人なんて一人もいませんよ」
 周りで影月の発言に耳をそばだてていた面々も、これには照れて苦笑いしている。杜影月君、さらに愛されること間違いなしだ。
 しかし。やはりもちろん、それだけで終わるはずはなかったのである。


「でも、これだけは言わせてください」
 影月は酔ってこそいるが精一杯表情を引き締めて、燕青と周りの州官たちに視線を据える。
「しゅ、春本はまだともかくとしてですよ? 酒宴の度に僕を妓楼に連れていこうとするのだけはやめてください!」
 どうやら、それが言いたかったらしい。
 それは好意だとか、君のためだとか声がかかるが影月はすっぱり無視をする。
「それでも、僕にとっては、正直ありがた迷惑っていうか、余計なお世話っていうか、そういうもんなんです!」
(そこまで嫌がらなくてもいいだろうよ……)
 燕青の内心のつぶやきは、周り中も同じだったらしい。
 香鈴という恋人もいることだし、女嫌いということもないであろうが。
「何事も経験だよ?」
 一人が言うと周りも一斉にうなずく。
「だから。お気持ちはほんとーに嬉しいんですけど!」
 それなら素直になろうとか、少年特有の潔癖さなんていつまでも言ってるんじゃないよとか、そういう声が飛ぶが影月は大きくかぶりを振った。
「万が一連れて行かれたとしたら、僕にとってもお店のそういう職の人にとっても、面白くない結果にしかならないって判ってるんです」
 そうならないために教えてもらうんだと、もっともらしくささやく声に影月はため息をつく。
「そうじゃあなくってですねえ! 単純に。僕は香鈴さんじゃないと役に立たないって言ってるんです!」
――周りの目が点になった。何やら影月らしからぬ台詞に聞こえたが気のせいではないだろうか。
 広間では依然、影月は注目を集めつづけていた。




 そんな折のことである。
「燕青様? もうかなり遅い時間ですけれどまだ続けられますの?」
 間がいいのか悪いのか、様子を見に来たらしい香鈴が顔を覗かせた。
 男ばかりの広間に途端に花が咲いたようである。
「香鈴さんも一緒に飲みませんか?」
 などという声もかかる。
「香……鈴……さん?」
 周りの声に影月はのろのろと顔を動かし、少女を視界に入れる。
 影月の声を聞き取ったらしい香鈴は、官吏たちを無視してまっすぐ影月の元に駆け寄った。
「まあ! 影月様! 大丈夫ですの!?」
 影月のまわりに転がった空になった瓶子が彼の干した酒量を物語っていた。
「ひどいですわ皆様! 影月様にこんなにお酒をすすめられるなんて!」
 周囲は後ろめたさに思わず顔を背けた。
「香鈴さん――」
 ささやくように影月が声をかけると、香鈴は甲斐甲斐しく水を用意して近づく。
「なんですの? お水は飲まれます? ご気分は?」
 影月は差し出された水を手を振って断り、懸命に香鈴に話しかけようとしてきた。
「皆さん、なかなか判ってくださらないんですよー」
 酔っていることは確かだが、呂律が怪しくなるほどではないらしかった。
「僕は香鈴さんじゃないと駄目なのに――」
「影月様?」
 話についていけていない香鈴は、もっとよく聞こうとすぐ傍に膝をつく。と。
「香鈴さんっ」
 影月はなんとその場で香鈴に抱きついていった。ざわめきが広間を走るが、影月にはまったく耳に入っていないようだ。
「香鈴さん、香鈴さん、香鈴さんっ――!」
「わ、わかりましたから! よくわからないんですけど、わかりましたから! どうぞお離しくださいませ!」
 当惑した香鈴の言葉に、いやいやをするように首を振って、力を抜こうともしない。
「影月様、お願いですからどうぞ……」
 香鈴がなおも言い募ると影月はきっぱりと拒否する。
「いやです。香鈴さんが好きなんです」
 さすがの香鈴もこの状況にこの台詞である。言葉を失ってしまっている。既に顔は赤く、紡がれない言葉で唇が小さく開かれたままだ。
「香鈴さんーっ!」
 そうして影月はそのまま香鈴の唇を奪ったのであった。


 誰もが言葉を失って注目していた。広間を支配するのは沈黙。今なら針の落ちた音すら聞き取れたことであろう。
 はじめ虚しく影月の身体を押しやろうとしていた香鈴の両手が、徐々に影月の衣を掴みながら滑り落ちていった。
 力を失った香鈴の重みがかかったせいか影月の身体が揺れ、その拍子に唇が離されたらしい。
 数泊置いて、香鈴は影月の腕をはらいのけ、きっと睨みつけると、
「いい加減に目をお覚ましくださいませ!」
 真っ赤な顔をして影月の頬を張った。
 痛そうな音が広間に響いた。――それも二回も。
「もう存じません!」
 香鈴は影月の胸を強く押して立ち上がると、顔を袖で隠して広間を飛び出して行った。その声は涙声であった。


 香鈴の手に押された影月の身体は、後にあった卓にぶつかった。その卓上にあった水入れが振動で倒れる。そしてご丁寧にも影月の頭から雨を降らせる結果となった。
「う……うわっ!?」
 水の冷たさに覚醒したのか、影月が頭を振る。周囲に髪からの水滴が飛ぶ。
「え、えーっと?」
 影月は周囲を見回して現状を把握しようとしていた。
「ここ……州牧邸の広間で……あれ? 僕、何して……。何で濡れてるんだ? ほっぺたも両方痛いし……」
 両手を腫れた頬にあてて、記憶を辿るが、どうやら思いっきり抜けおちているようである。

 燕青はため息をつくと、影月の両肩に手を載せた。
「あのな、影月。悪いこと言わねーから、早いとこ嬢ちゃんに謝ってこい」
「は? 何で香鈴さん?」
 不思議そうな顔の影月に根気強く燕青は続けた。
「酔った勢いでたった今、様子見に来た嬢ちゃんにここでちゅーかましやがったんだよお前は」
 それは何の冗談かと影月の視線が語っていたが、燕青はかぶりを振る。
「え……それって、嘘、じゃない、んですか……」
「生憎、ここにいる全員が証人だ」
 影月が視線を巡らせると、皆一斉にうなずいた。
「――――――――――!」
 言葉を失った影月に燕青は心から告げた。
「今まで散々悪かったな。もう二度と妓楼に連れて行こうなんてしないから。まさかお前がべろちゅーできるほど大人だとは思ってもいなかったんでなー」
「べ……」
 燕青の言葉が徐々に頭に浸透していったのだろう。影月の顔色は赤くなり、それから今度は青くなった。
「うわあぁっ!」
 影月は叫び声を上げると、そのまま広間から駆け出して行った。




「……まいった」
 頭を抱え込んで燕青がつぶやくと、周囲もようやく金縛りから解放されたようだった。
「はははははは……」
 一人が力なく笑い出すと、たちまち周囲に感染した。
「わははははははははははっ!」
 広間中で笑いが巻き起こる。だが、その響きはどこか虚しい。それでも、しばらくは止めることができなかった。
「わははははははははは……」
 熱病のように周囲を席巻した笑いも唐突に収束する。その次には一斉にため息が落とされた。

「そうだよな。余計なことだったよな」
「影月君には香鈴さんがいるんだもんな」
「あんな彼女なら俺も欲しい……」
「言うなっ! 泣きたくなるだろうっ!」
 疲れた表情の官吏たちが顔を見合わせる。
「……なあ。あの二人ってどこまでいってると思う?」
 一人の爆発宣言に広間は再び騒然となる。
「馬鹿っ! 影月君だぞ!? 接吻がせいぜいに決まってる!」
「いや、でもな? 考えてみれば一つ屋根の下ってやつだぞ?」
「まさか……な」
「実はとっくに……とか」
「駄目だ駄目だ! 影月君にはまだ清らかでいてもらわないと!」
「それを言うなら香鈴さんだろ!」
「でも、俺なら抑えのきかない自信があるぞ!」
「黙れけだもの!」
「うるさいっ! 人のこと言えるかよっ」
 何やら一触即発の雰囲気が漂う。そして一同の視線は燕青に集中する。
「なあ燕青。実際のところ、あの二人、どうなんだよ」
「――――――俺が知るかよ」
 なんだか泣きたい、と燕青は思った。


 ふいに官吏の一人が立ち上がると、高らかに宣言した。
「俺、彼女作る! 絶対作る! 今すぐ作る!」
「どこに当てがあるんだー?」
 野次に男は怒鳴り返した。
「馬鹿野郎!そ の気になって探せば絶対見つかるんだよっ!」
「そうかなー」
「俺、どうせなら香鈴さんみたいな美人でしっかりものの彼女が欲しい」
 夢見るように杯を傾けた別の男がつぶやく。
「香鈴さん、いいよなー」
「あのな。香鈴さん級の女がだよ? 独り身でいるわけねーだろっ!?」
「茶州であのくらいの女ねえ。そもそもいるのか?」
「茶家の奥方くらいか」
「馬鹿! いくらなんでも高嶺の花の上、人の女房だろうが!」
「さすがに茶家は敵にまわせねー」
「ああ! 影月君でなかったら! 香鈴さんの相手が影月君でなかったら! そしたら俺、絶対奪い取るのにっ!」
「影月君でなかったら、俺だって参戦してるぞ馬鹿!」
「影月君から奪うなんてそんな非道なことができるかっ!」
「そうなんだよ。影月君だもんなー」
 やがて広間は別のため息で埋め尽くされた。


「ふん。調子のいいこと言ったところで嬢ちゃんが相手するわけねーだろ。もちっと分相応って言葉を覚えやがれ小僧っ子ども」
 それまで我関せずで嬉々として酒樽を空けることに腐心していたらしい葉医師が唐突に口をはさんできた。
「葉のおっちゃん」
 燕青の知らぬ間に随分と酒がなくなっていた。
「髭吉もな、人の世話ばっかり焼いてねーで、自分どうにかしろっての」
 遠慮のない葉医師の言葉に、酌をしながら官吏がつぶやく。
「あ、燕青は無理だから」
「そうそう。借金ちゃらにしない限りどんな女でも逃げる」
「南老師がいる限り無理だな」
「そうだな」
「か、かわいそうだ、燕青っ!」
 何故か泣き出す者もいて、燕青は苦虫をかみつぶしたかのような顔になる。
「頼む。お前らに同情されると涙出る。情けなくて」
 たちまち燕青の上に瓶子や杯が飛んだ。果ては樽まで飛んだ。広間は物の飛び交う音と罵声が溢れかえった。


 そうして、ようやく気が済んだのだろう。
「俺、もう帰る。酔いも醒めたし、酒抜いて明日の休みは彼女探しに行くから」
「抜け駆けすんな! 俺だって明日はばっちり決めて行くんだ!」
「俺も俺も!」
「燕青、あと頼むー」
「それじゃあ帰るわ」
 三々五々、官吏たちは立ち上がり去っていく。
 若い医師たちもまた、
「葉医師、僕たち先に帰りますからね」
「適当に引き上げてくださいよ」
「あーあ、影月君と医術について話そうと思ってたのになー」
 そうして。広間に残っているのは燕青と葉医師だけになっていた。


 燕青は床に大の字になってしばらく動かなかった。
 眠っているわけではない。だがもう疲れ果てていた。
(俺のしたことって、結局何だったんだー?)
 だがいつまでもそうしていられずに起き上がる。視界に入るのはこの上もなく散らかった広間の惨状。
「……あ? もしかして、ここ、俺一人で片付けんのかっ!?」
「あんなことがあった後だ。嬢ちゃんも手伝ってくれねーだろうよ」
 残っている酒をすべて飲み干そうとしているのだろうか。葉医師は手酌で相変わらず飲み続けている。
「そうだろうな。絶対手伝っちゃくれねーよな」
 燕青は天井を仰いで首を振る。とにかく疲れた。
「俺、室に戻って寝てくる。ここは明日片付けるわ」
「そーかそーか。餓鬼はとっとと寝ろ」
 葉医師は燕青を見もせずに片手を振る。
「おっちゃんは飲み過ぎんなよ?」
「誰に向かって言ってんだ? ああ?」
 憎まれ口ばかりだが、燕青はこの医師が嫌いではない。
「影月用に念のため二日酔いの薬置いていってやってな」
「あー、あの小僧なら問題ねーよ」
「そうなのか?」
「おうっ! 賭けてもいいぞ」
 医師相手にそんな分の悪い賭けなどしてはたまらない。後ろ手で挨拶しながら燕青もまた広間を出た。
「おやすみ、おっちゃん」
 今はただ、自分の臥台だけが恋しかった。




 翌日、燕青は一人で広間を片付けた。それは一日仕事で、燕青の休日は虚しく過ぎた。
 見事に酒が残っていないのは葉医師のせいだろう。自棄酒もできはしない。
 そしてその日。燕青は影月の顔も香鈴の顔も見ることはなかった。昨日の今日では燕青に顔を合わせられないのだろうと思うが、避けられていると思うとなんとも寂しさがつのる。
(教訓。おせっかいは程ほどに)
 燕青は自嘲しながら、それでもなんとか広間を元通りにしたのだった。


 その後。影月は酒宴に誘われるとやんわりと断るようになり、断りきれない酒宴に参加する場合でも、決して酒を過ごしすぎることはなかったという――。

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『燕青の茶州酒宴開催記』(えんせいのさしゅうしゅえんかいさいき)


この話は『影月の茶州酒宴体験記』よりちょうど1年後くらいの話です。

ある日ふと。
「影月の酒ぐせってどんなだろう?」
と考えたのがこの話のネタになりました。
笑い上戸でも泣き上戸でも面白い。
でもやはりここは迫り上戸(?)で。

最初は誰彼かまわずに「香鈴さんっ」と抱きつく――
というのを考えたのですが、
ビジュアル的にどうしても許せなくてこういう話になりました。

名もない官吏たちの台詞はぽこぽこ出てきて面白かったです。

この酒宴の後、茶州州官たちは影月(と香鈴)を見て。
「まだ」か「もう」かと悶々と悩むことになります(苦笑)