君と、いつまでも――




「霄太師、贈り物が届いております」
 下官からうやうやしく渡された荷に霄は眉をひそめた。
 伝説級の名宰相・霄瑤センの元に付け届けがあるのは珍しくもないのだが、なにやら不吉な予感がする。
 下官が下がった後、添えられた書簡を手にし、差出人の名を見た途端、霄は料紙を取り落としかけた。
「げっ! 不幸の手紙っ」
 ふいに後ろから書簡が取り上げられる。霄にそんな振る舞いができるのは、宋隼凱くらいのものだ。
「なんだ? ……縹英姫からか。たしかに不幸の手紙だ」
 料紙には鮮やかな手跡でただひとこと、
『食せ』
 とだけあった。
「食えってことは、この荷は食い物か」
 宮城に届けられる荷がすべて検疫済みなのはたしかだったが、二人は怖々と荷を取り巻いていた。
 霄よりも思い切りのいい宋が
「開けるぞ」
 と、それでも荷に手をかけた。

 中に入っていたのは、葉と多量の氷に包まれた――
「河豚、か」
 まったく見事な河豚だった。
「やっぱり、おっかない女だな、縹英姫は」
 宋はしみじみとつぶやく。
 書簡の意は間違いなく、
『河豚にあたってくたばってしまえ――!』
 霄は深くため息をついた。
「そんなにこの間送った物が気にいらなかったか」
「何送ったって?」
「評判の皺とり薬だ」
「……また逆鱗に触れるようなことを」
 遠い茶州から今も、こちらを睨んでいる英姫の姿が見えるようだった。

「おい、霄。どこへ行く?」
「庖丁人に調理させてくる。宋、おまえも食うのを手伝え」
 荷を抱え上げた霄は宋を振り返る。
「宮城の庖丁人がきれいに肝をとっても、まだなんか痺れそうだな」

 まったくだ、としみじみ内心で同意しながら、霄はかの女性(にょしょう)を想う。
 ――美女ならば、数多見てきた。
 だが、飽きるほどの年月を生きてきた霄に、これほどまで印象付けた女など、他に誰もいない。
 茶鴛洵がこの世を去った後も、自分と英姫は鴛洵を挟んで今も睨みあっている。
「まだまだ長生きしてくれよ、英姫」
 おそらくは、英姫が霄を置いていく、その時まで――。


(終)

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『君と、いつまでも――』(きみと、いつまでも)


『漆黒の月の宴』の後日談で、
掟破りの霄太師×縹英姫です(笑)
峠様と胡桃様のイベント『彩雲国いがみ愛祭』に刺激され
(あちらは、メインが清雅と秀麗ですが…)
昼休みに書き上げてしまいました(苦笑)

櫂瑜の誤解(?)を入れそびれたのが残念ですが。

ちなみに、「河豚」は「ふぐ」です。
中国語だと「いるか」の意味になったような気がしますが、
あくまでも「ふぐ」で。
彩雲国に河豚がいるかはまだ確認されておりません。

『彩雲国いがみ愛祭』はこちら
期間は平成18年11月中。
この小品は、そちらにも投稿させていただきました。